全日本印刷工業組合連合会・MUD推進プロジェクト(委員長;森永伸博)では、全ての人に優しく、より多くの人が快適に利用できることを目的としたユニバーサルデザイン思想の一環である「メディア・ユニバーサルデザイン(MUD)活動」に取り組んでおり、ユニバーサルデザインに対応した印刷物をはじめとする様々なメディアの研究を進めています。
この取り組みの一環として、一般社会に対してMUD活動の意義と必要性を広くアピールするとともに、印刷業界においても技術の向上を目指すことを目的として、昨年度に引き続き「第4回メディア・ユニバーサルデザイン(MUD)コンペティション」を開催し、全国から215点のご応募をいただき、厳正なる審査の結果、20点の入賞作品を決定いたしました。
入賞者は以下のとおりです。
賞 | 企業・学校名 | 出品者 | 作品名 | 都道府県名 |
最優秀賞 (グランプリ) |
株式会社 ケーエスアイ | 木村 昌三 | MUD大阪アラっ?カルタ | 大阪府 |
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広告デザイン 専門学校 | 飛田 誠 | UD封筒 | 愛知県 | |
優秀賞 (準グランプリ) |
有限会社チャイナックス/ 株式会社進和クリエイティブセンター |
伊藤 由美 後藤 行弘 |
福島を訪れる海外からのお客様のためのおもてなしガイド | 福島県 |
瞬報社オフリン印刷株式会社 | 辻岡 優日 | 2011カレンダー | 山口県 | |
大阪シーリング印刷株式会社 | 川本 直樹 | 水都大阪 さんぽみち | 大阪府 | |
大阪コミュニケーションアート 専門学校 | 江川 実奈子 | カンタンケータイの使い方 | 大阪府 | |
大阪コミュニケーションアート 専門学校 | 西岡 侑姫 | 日本伝統の柄 千代紙のMUD化 |
大阪府 | |
大阪コミュニケーションアート 専門学校 | LAM TSZ YING (リン チ ヨウ) |
MUD絵カード・ゲーム | 大阪府 | |
佳 作 | 大村印刷 株式会社 | 兼清 隆宏 下永 幹巳 有川 俊江 |
2011年 MUDカレンダー | 山口県 |
株式会社スタジオーネ63 | ― | JAF会員募集のご案内 | 東京都 | |
文京区・文の京わたしの便利帳発行 実行委員会 | 利根川印刷 株式会社 株式会社ソマード |
2010 文の京 わたしの便利帳 | 東京都 | |
いづみ印刷株式会社 | 安東 美奈江 | 均一祭チラシ | 大分県 | |
キタグチ印刷 株式会社 | 北口 忠英 | 大阪市西区ふれあいマップ (障がい者・児編、高齢者編、 子育て編) |
大阪府 | |
大阪シーリング印刷株式会社 | 村中 成仁 | 大阪ジグソーマップ | 大阪府 | |
東京都立 工芸高等学校 | グラフィックアーツ科 3年生 33名 |
マンガでわかる グラフィックアーツ科 |
東京都 | |
大阪市立デザイン教育研究所 | 中村 絢香 野田 小百合 |
大阪市立視覚特別支援学校 ポスター・チラシ |
大阪府 | |
大阪コミュニケーションアート 専門学校 | 山田 有紀 | サポートパレット | 大阪府 | |
大阪コミュニケーションアート 専門学校 | 末吉 幹子 | ABC Karuta | 大阪府 | |
大阪コミュニケーションアート 専門学校 | 中山 裕美子 | パッケージ改善案 | 大阪府 | |
大阪コミュニケーションアート 専門学校 | 島 悦子 | MUD手帳2011 | 大阪府 |
作品名:MUD大阪アラっ?カルタ
株式会社ケーエスアイ(大阪府)
MUDプロジェクトチーム
古来より庶民の遊びとして親しまれている「かるた」を題材に、大阪弁を使用して、大阪の良いところ、おもしろい特徴を紹介する『MUD大阪アラっ?カルタ』を作成しました。大阪人はもとより、他府県の人に大阪の楽しさを伝えることができるかるたです。さらにUDの観点から、海外の人にも遊んでいただけるよう、英語・中国語・韓国語を表記。表面に大阪弁と英語、裏面に中国語と韓国語を掲載、それぞれの言葉でかるた遊びが出来る上に、外国語の教材にもなります。形も判別しやすさを考慮してオリジナルの変形かるたにしました。配色はカラーユニバーサルデザインを配慮、また、各国の読み仮名も付けています。
元気で明るい大阪のイメージにぴったりの『MUD大阪アラっ?カルタ』です。
大阪独特の文化や名所を紹介するカルタ。日本語・中国語・韓国語・英語の4カ国語を盛り込み、大阪らしさを表す印象的な絵柄を入れるという困難を極める作業が要求されたと思われるが、それをクリアして、デザイン的にも多くの情報を小さなスペースに要領よくまとめている。また、カルタは四角いものという既成概念を破り、カードの角を丸や四角に突出させることで、そこに書かれた文字に直感的に目がいくようになっている点も見逃せない。
作品名:UD封筒
広告デザイン専門学校(愛知県)
飛田 誠
封筒は老若男女に使用される。しかし、封筒はなかなか人を寄せつけない。封筒の宛名や住所を書く時に曲がったり、歪んだりして、なかなかバランスがとれない。結果、読みづらくなり、時には相手を不快な気持ちにさせるかもしれない。そこでUD封筒を作成した。
① ガイドがあるので字のバランスが整いやすい。
② 濃淡だけでデザインしてあるので、どの世代の人でも抵抗なく使用できる。
「封筒の宛名を書くときにどうしても行が曲がってしまう」という、小さなことだが多くの人が困っている問題を、デザインで解決した作品。よくあるように封筒に罫線を入れるのでは、見た目が事務的になって面白くないし、行の数や幅も制約されてしまう。淡いトーンで不規則な幅の平行な塗り分けを施すことで、一見すると罫線には全く見えないのに、実際には罫線を引いてあるのと同じ働きをさせている。身の回りの小さいが重要な問題をデザインの力で解決し、趣旨を理解していなくても自然にその効用を活用できる点で、ユニバーサルデザインの模範例になっている
作品名:福島を訪れる海外からのお客様のためのおもてなしガイド
有限会社チャイナックス/株式会社進和クリエイティブセンター(福島県)
・ガイドブック、多言語おもてなしキット、CD-ROMで構成
・福島県内の旅館、ホテルに配布
・地元に密着した福島ならではの情報を提供
・ガイドブックは文字や配色、他文化への配慮などUDを意識した
・既に外国人を受け入れている旅館や日本在住の外国人の意見を反映
・多言語キットはすぐ使える内容をコピー可能な配色で作成
・CD-ROMには多言語キットを書き込み可能なPDFで提供
海外観光客向けではなく、ホテルや旅館など海外観光客を受け入れる観光事業者向けの情報パンフレット。海外とひとまとめにせず、国ごとに異なる習慣や好み・タブーなどを分かりやすく説明している。さらに、多言語のピクトサイン・お風呂の入り方の説明・フロントでの会話帳など、旅行業の現場で不可欠なツールを提供し、しかもそれらは現場でコピーして使われることを想定して、コピーに適した色調で印刷されている。現場でのニーズを研究しぬいて作った、極めて実用性の高い作品になっている。この出品者は毎回あらゆる角度からメディア・ユニバーサルデザインの提案を行っているが、その全てがマンネリに陥らず、全く新しい発想から具体的課題を効果的に解決している点が、高く評価できる。
作品名:2011 やさしいCalendar
瞬報社オフリン印刷株式会社(山口県)
辻岡 優日
「伝える」
・カレンダーとしての基本的な情報は全ての人に公平に伝えられるよう工夫しています。
・曜日、祝祭日の差別化はマーク化することでハッキリと明確に伝えます。
・色情報は見る人によっては紛らわしくなることもあるため、あえて黒のみでデザイン。
・数字も大きめに配置してあります。
「楽しむ」
・文字情報が黒のみで構成されているぶん、バックに色を配し12ヶ月を楽しめるようにしています。
・それぞれにはイラストを入れ、色情報が伝わらない方にも楽しめるようになっています。
・毎月「Shikitari」と題して、その時期の日本の風習などについて説明を入れています。
「使う」
・家庭やオフィスで使いやすいよう、少しだけなら書き込むことも可能なスペースをとっています。
・手に取る、置くの動作が誰にとってもストレスのないことを意識した形となっています。
・月の更新はお子様、高齢者、目の不自由な方と、誰にとっても容易なめくるタイプにしています。
点字表示を加えた卓上カレンダー。文字は黒一色とし、土日祭日もデザインの違いではっきりと表すことで、背景と大きなコントラストを確保し、白内障の人にとっても非常に配慮が行き届いている。一方、背景は淡い色調で月ごとに色を変えてシンプルな図案を入れることで、カラフルさを出す一方、余白へのメモ書きも可能な実用性を兼ね備えている。目が見えない人にはカレンダーを1ページずつめくることも容易ではないが、この作品ではタブを設け、タブの中にも月名の点字を入れることで、すぐに目的の月のページが開けるようになっている。細部にわたって細かい使いやすさの工夫が徹底された、高級旅館の女将のような「おもてなしの心」に満ちた作品である。
作品名:水都大阪 さんぽみち
dsadsa
aaaaaaaa
水都大阪の水の豊かさを発見出来るデザインをコンセプトに作成しました。
・デザイン面
デザインを面白く見せる為「大阪の水道水」の入ったペットボトルをベースにし、地図の川の部分を透明にして川を本物の大阪の水で表現しました。全体をレトロ調にし、中之島の建物の雰囲気に合わせました。
・MUD面
全体の配色を色覚障がい者の方でも解りやすい配色にしました。切り取り部分を大きく解りやすく表示し、分別しやすくしました。また、 原材料、栄養成分表示欄を見やすいボーダー柄にしました。
特定の地域だけで販売されるご当地飲料のパッケージの提案。地域の観光キャンペーンでは対象地域の案内図が不可欠であるが、観光案内所で配付されるような小型の地図はいつも手に持っているのも面倒だし、カバンにしまってしまうと必要なときに見つからなかったりして、意外に不便である。この提案は飲料のパッケージ自体を地図にしてしまうという斬新な提案で、地図を見やすく持ち歩けると共に、対象商品を手にとって眺めてもらう時間が増えることによって、商品の宣伝効果もある。水が流れるところを透明にして中の飲料を水に見立てているところも面白い。原材料表示に昨年同社が受賞したボーダー柄を取り入れるなど、ノウハウの活用にも熱心である。
作品名:カンタンケータイの使い方
大阪コミュニケーションアート専門学校(大阪府)
江川 実奈子
・高齢者の方でも見やすいように文字を大きくする。
・子どもにもわかるように漢字にはルビをふる。
・ボタンを拡大することによってわかりやすさを上げる。
・どこのボタンかを差し示すことによって場所を特定しやすくする。
・ハッキリとした色づかいで見やすく。
簡単ケータイの本体と、その取扱説明書のデザイン提案。高機能化した携帯電話は、電子機器に慣れた人でも使いこなすのが難しい。使い方を簡便にした簡単ケータイも発売されているが、デザインの決定版はなかなかない。この携帯は、電源を直感的に入切が分かるスライドスイッチにしたり、ボタンの機能をアイコンでなく漢字で表記するなど、使いやすさを追求している。その上で、電話・メール・アドレス交換・写真など電話機を使う場面ごとに、手順を分かりやすく図示した説明書を作っている。この説明書は、文字や文章が読めなくても絵を見ることで視覚的に理解できるうえ、やりたい作業別に流れを追って押すべきボタンを示すという実用的な作りになっている。既存の携帯電話を作っている多くのメーカーに見習ってほしいものである。
作品名:日本伝統の柄 千代紙のMUD化
大阪コミュニケーションアート専門学校(大阪府)
西岡 侑姫
・色覚障がい者や外国人に向けて、日本伝統の柄を知ってもらいたい。
・3種類の基本柄と日本の四季を表現した風物詩の柄を2種類、計5枚の千代紙をセットする。
・色よりも柄を楽しめるようにした。
・付属として、それぞれの風物詩の説明を添えることで、より日本の特徴を知ることができる。
日本の伝統的なものの色合いというのは得てして淡いものが多く、はっきりとしたものが少ないが、この作品はさまざまな色の見え方の人や、色に関する感性が日本人と必ずしも同じではない外国人にも変わらず楽しめるように、色合いを際立たせて誰にでも楽しめる配色を用いる一方、色でなく柄や図案で日本らしさを出している。外国人向けに、描かれた図案についての説明もつけて、日本文化への理解を広める助けとしている。単に伝統工芸をそのまま伝えるだけでなく、こうした形で伝統を再定義して発展させてゆくのも現代のデザイナーの重要な役割だろう。
作品名:MUD絵カード・ゲーム
大阪コミュニケーションアート専門学校(大阪府)
LAM(リン) TSZ(チ) YING(ヨウ)
・3才からの子どもに向けるため、言葉はすべてわかりやすく平仮名にしました。
・絵はなるべく一色で表されるものにしました。
・複数色がついてくる絵もあるため、色の名前の前にその色を付けた○を付けました。
・子どもが手になじむように、手書き風に仕上げました(自分が書いたものみたいと共感してもらったり)。
「栗は茶色」、「山は緑色」など、ものの色名をゲーム感覚で覚える子ども向けのカード。幼稚園/保育園から小学校入学前後の子どもにとって、実物を見ないでものの色名を当てるのは楽しい遊びになると共に、色に関わる常識を養うのに有効である。しかしこのゲームのよいところは、そのような一般的な遊具としてのメリットだけではない。実は色弱の人は、一般の人と同じようには色の名前が区別できないため、ものを見てもそれが何色であるかを言えないことが少なくない。そのため、○○は××色、□□は△△色というように、ものの色名を知識として記憶する必要がある。このゲームは、色弱の子どもも自分がそうであることを意識せず、楽しみながら色を覚えることができる。色弱の子ども向けの特殊な商品でなく、一般向けのゲームでありながら色弱の子どもには特に便利なメリットを備えている商品の提案であるところが、ユニバーサルデザインとして優れている。ぜひ一般向け商品として売り出して欲しい。
第4回メディア・ユニバーサルデザインコンペティション
審査委員長 伊 藤 啓
(東京大学分子細胞生物学研究所 准教授)
スケジュールの関係で、第4回のメディア・ユニバーサルデザインコンペティションは前回からわずか半年後に募集されることになったにも関わらず、前回を上回る215点もの作品が集まった。技術的なレベルは総じて高く、このコンペティションはすでにユニバーサルデザインの基礎的な技術ができているかを競うのではなく、デザインの完成度の高さや、従来なかった新しいデザイン発想を競う場へと変貌しつつある。上位の作品のレベルは大変拮抗しており、優秀作品の選定は難しかった。
今回は一般の方々の作品が学生の方々の作品に比べておよそ3倍の応募があったが、いざ審査をしてみると、学生部門の作品の方がおもしろい発想や素晴らしいアイデアを持つ、魅力的なものが多かった。既成概念にとらわれずに独創的な発想ができる、若手の人材の優秀性が感じられる。ユニバーサルデザインはどことなく均一化・画一化といったマイナスのイメージを持たれることがあるが、新しい着想に基づいたデザインを創ることが実際にはいくらでも可能であることを、学生たちの元気の良い応募作品たちが力強く物語っている。日本の印刷・デザイン業界の将来に明るい期待が持てる一方、このような学生たちが就職したのちも柔軟で独創的な発想を活かしてゆけるような業界の環境作りが望まれる。
これに対し一般作品は、ユニバーサルデザインの基本的手法を使いこなして着実に見やすさを確保する堅実な作品が多くを占めるようになり、ユニバーサルデザインがもはや基本的な技術として定着しつつあることを物語っている。これは素晴らしいことである反面、より多くの人にさらに分かりやすく情報を伝えるためのさらに新しいデザイン技法を、プロとしての豊富な経験を活かして開発し、提案してゆくことも、今後の応募作品には期待したい。
ソフトや液晶モニター、メガネなどを利用した色の見え方のシミュレーションが容易にできるようになってきたことで、一般の印刷物ではまだまだ問題が多いものの、少なくともメディア・ユニバーサルデザインコンペティションの応募作品では、色づかいに極端な問題のあるものは少なくなってきた。しかし、「色」で解決することに重きをおくあまり、「付加情報」による解決方法を疎かにしがちになっている感もある。カラー印刷が普及する前は、形や塗り分けパターンの違い、書体の違い、デザインの工夫などによって、スミ一色でさまざまな情報をうまく伝える技術がとても発達していた。カラー化した途端に、百年を越えるせっかくのこの技術的蓄積が雲散霧消してしまっている感がある。色は形による情報伝達を置きかえるものではなく、形で十分に情報を伝えた上で、さらに分かりやすさを増すために加えるものだと考えた方がよい。カラーの既存デザインをベースに、この色をどう再調整しようかと考えるのでなく、むかしの白黒デザインを再度取り出して、これにどのように色をつけようかと考える方が、誰にでも見やすいデザインを作れる可能性がある。
また、白内障の人や高齢者、弱視の人など、視力が低い人への配慮はまだまだ不十分である。なるべくシンプルなデザインで、コントラストを十分に確保し、図と文字を分かりやすく配置する必要がある。UDフォントの使用が増えてきたが、字送りや行間の調整を怠ると見やすさは全く向上しない。イラストや色付き背景の上に文字を重ねるときに見やすさをどう確保するかも、さまざまな工夫の余地がある。
応募作品の中で着実に増えつつあって今後の重要性が期待されるのが、多言語への対応である。ワールドカップでブラジル出身の選手が日本の活躍の柱になったように、韓国語・中国語・ポルトガル語・英語などを母国語とする人が日本には多数居住し、「お客さん」ではなく日本の経済活動をともに支える「仲間」となっている。しかし残念ながらコミュニケーションの不足による誤解が、無用な行き違いを生むことも少なくない。ほとんどの人は何カ国もの言葉をしゃべることができない以上、印刷物で多くの言語をカバーすることは、生活に必要な情報を共有するために不可欠な手段になってゆくであろう。
最近では中国や韓国などのアジア諸国でもユニバーサルデザインに配慮していく機運が高まっている。ユニバーサルデザイン先進国の日本としてはこれらの国へのさまざまな立場の人へ、ユニバーサルデザインの考え方の浸透を図ることも重要である。多言語化したユニバーサルデザインは、このためのよい見本にもなるだろう。